メルマガからの転載です。


 

ある日、小さな僧のもとに、大柄で筋骨たくましい侍が訪ねて来た。

「お坊様。」

侍は、その場限りの猫なで声でこう言った。

「天国と地獄のことを知りたいんですがね。」

僧は、強そうな侍を見上げると、軽蔑するような目つきでこう言った。

「 天国と地獄だと?
 お前のような奴に教えることなど何もない。汚らわしい。
 ああ、臭い臭い。
 お前は臭いし刀もさび付いている。
 なんて恥ずかしい奴だ。お前は侍の面汚しだ。
 さっさと消えろ。見るのもうんざりだ。」

この言葉に侍は激怒した。
あまりの怒りに体は震え、顔は真っ赤になった。
彼は刀を抜き高々と振り上げると、僧めがけて振り下ろそうとした。

「それが地獄というものですよ。」 僧は優しく言った。

その瞬間、侍の体は硬直したように動かなくなった。
この小さな僧が、地獄というものを教えるために命がけで行った説教に、
侍は慈悲と自己放棄の精神を見た。

侍は、ゆっくりと刀を降ろした。
心には感謝の思いがみなぎり、直ちに平和が訪れた。

「そして、それが天国というものです。」 僧は優しく言った。

 

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