「船頭と良寛」



村一番の人気者・良寛に対し、村一番の嫌われ者がいた。

渡し舟の船頭です。 大酒飲みで乱暴者。

一方、良寛は皆から尊敬され、愛されている。


船頭はそれが気に入らず、もし良寛が自分の舟に一人で乗ってきたら、落としてやろうと思っていた。


幸か不幸か、良寛が一人で舟に乗ることがあった。


船頭は川の半ばまで舟を出し、

ユラユラ揺らして良寛を舟から落としてしまった。


良寛は泳げません。

水をたくさん飲んで死にかけました。


船頭は「もういいだろう」と良寛を舟ばたに引っぱりあげた。



良寛は水を吐いたり呼吸を整えて、

やっと声が出るようになった第一声で、こう言った。


「あなたは命の恩人だ。

 助けてくださってありがとう。

 このご恩は一生忘れません」と。



目の前で、船頭が舟を揺らし、自分を落としたのです。

が、それについては一言も言わず、

ただ助けてもらったことへのお礼の言葉しか、良寛は口にしなかった。


このとき船頭は、心の底から悔いた。

ああ、俺はどうしてこのような人にこんなひどいことをしてしまったのだろうと。


そして船頭はこの瞬間から、真人間になることを決意したという。